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鳥取地方裁判所 昭和35年(ワ)83号 判決

原告 山陰ビーエス株式会社

被告 鳥取新菱自動車株式会社

主文

被告が訴外有限会社川上サイクル商会に対する鳥取地方法務局所属公証人山下文次郎作成第六三四二九号公正証書の執行力ある正本に基き昭和三五年六月二五日別紙目録記載の物件に対して為した強制執行はこれを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

本件について当裁判所が昭和三五年七月一三日に為した強制執行停止決定はこれを認可する。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求めた。

第二主張

原告訴訟代理人は請求の原因として左の通り述べた。

「(一) 原告はブリジストンタイヤ、自転車等の販売を目的とする会社であるが、昭和三五年六月二〇日訴外有限会社川上サイクル商会との間に委託販売契約を締結し、同月二一日原告所有にかかる別紙目録記載のブリジストン自転車合計一二台を右会社に販売委託の為交付した。

(二) 被告は右川上サイクル商会に対する請求の趣旨記載の債務名義に基き、同商会に対して有体動産強制執行を為し、昭和三五年六月二五日他の物件と共に別紙目録記載のブリジストン自転車一二台を差押え、同年七月一一日競売が施行され、第三者が本件物件を含む自転車一五台を一括して代金八四、五〇〇円で競落し即日代金を納付したが、右競売代金は今なお鳥取地方裁判所執行吏において保管中である。

(三) 右の次第で別紙目録記載の物件は原告の所有であり、訴外商会に対する債務名義に基いて強制執行を受けるいわれはなく、競売終了の現在においても前記の売得金の中自転車一二台分に相当する金六七、六〇〇円について権利を主張し得る筈であるから、本件強制執行の排除を求める為本訴に及んだ。」

被告訴訟代理人は答弁として左の通り述べた。

「原告主張の(一)の事実は否認する。(二)の事実は競売代金が今なお鳥取地方裁判所執行吏において保管中であるとの点を除いてこれを認める。本件執行に際しては、他の六名の債権者が配当要求の申立をしたので、売得金八四、五〇〇円の中被告に対する配当額は金三七、六八七円となつたところ、被告は右配当金を昭和三五年九月三日鳥取地方裁判所執行吏より受領した。

(1)  従つて、仮に原告主張のように別紙目録記載の物件の所有者が原告であるとしても、有体動産に対する強制執行は執行吏が競落人より代金を領収した時を以て終了するものと解すべきであるから、本件ではすでに執行が終了して訴訟の目的が存在せざるに至つており、本訴は失当である。

(2)  仮に有体動産に対する強制執行が執行吏による代金の領収によつて終了しないとしても、前記のように被告自身としてはすでに売得金の配当を受けており、被告に関する限りは昭和三五年九月三日を以て強制執行が終了しているから、被告を相手方とする本訴は理由がない。

(3)  しかも、被告の受けた配当金には本訴物件に関係のない自転車三台分の売得金が包含されている。即ち本件競落代金の金八四、五〇〇円は自転車一五台分の代金なのであり、仮に原告主張の一二台分に相当する金額が金六七、六〇〇円であるとしても、被告に対する前記の三七、六八七円の配当金は六七、六〇〇円の内金でなくして八四、五〇〇円の内金なのであり、被告が正当に配当を受くべき自転車三台分の売得金が包含されているのであるから、その部分(被告計算によれば金七、五三七円となる)については原告は異議を主張することを得ない。よつて原告の請求に応じることはできない。」

第三証拠

原告訴訟代理人は甲第一、第二号証、第三号証の一乃至五、第四乃至第七号証を提出し、証人漆原義治、同金田博己の各証言を援用し、被告訴訟代理人は証人浜崎秀雄、同米沢左武郎の各証言を援用し、甲第二号証、第四乃至第七号証の成立を認め、その余の甲号証の成立は不知であると述べた。

理由

証人漆原義治、同金田博己の各証言によつて成立を認め得る甲第一号証、第三号証の一乃至五、証人漆原義治、同金田博己の各証言を綜合すると、原告会社はブリジストン自転車等の販売を業とする会社であるところ、昭和三五年六月二〇日訴外川上サイクル商会との間に委託販売契約を締結し、同月二一日原告会社所有にかかる別紙目録記載の自転車一二台を委託販売の為同商会に交付した(すでに同商会が占有していたものについては占有改定の方法により引渡を了した)事実を認めることができ、右認定に反する趣旨の証人浜崎秀雄の証言は前記の各証拠及び証人米沢左武郎の証言に対比して信用できず、他に右認定に反する証拠はない。そして被告が原告主張の債務名義に基き別紙目録記載の物件外三台の自転車を昭和三五年六月二五日差押え、同年七月一一日競売が行われ、第三者が右自転車一五台を一括して金八四、五〇〇円で競落し、即日代金を鳥取地方裁判所執行吏に支払つたことについては当事者間に争がない。而して成立に争がない甲第五、第七号証、証人米沢左武郎、同浜崎秀雄の証言を綜合すると、原告会社は右強制執行に対し昭和三五年七月一三日本件の強制執行異議の訴を提起すると共に強制執行停止決定を得、即日その決定正本を執行吏米沢左武郎に提出して執行の停止を求めたが、同執行吏は売得金の領収によつて既に強制執行は終了し執行停止の余地はないものとの見解の下に、同年九月三日被告に対し配当金三七、六八七円(売得金は金八四、五〇〇円で執行費用金七、七二〇円を差引き金七六、七八〇円が配当さるべき額となつたが、他に配当要求の申立をした債権者があつたためこの額となつた)を交付した。然し原告の代理人君野弁護士より執行終了時期につき異つた法律的見解を示され右取扱に疑義を抱き他の配当要求債権者に対する配当金の交付を留保し、残余の金員をそのまま自己において保管して現在に至つていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで被告の主張について判断する。第三者異議の訴は訴訟法上の異議権を訴訟物とする訴であるため執行が終了した後は仮に目的物件について実体法上理由があつても排斥を免れないことは謂うまでもないところであるが、前記認定の事実よりすれば、執行吏は売得金の一部を交付しただけで残余は自らにおいて保管し配当手続を完了しておらないのであるから、強制執行は今なお存続中であつて、本件の訴は理由があるものというべきである。尤もこの点に関しては執行吏が競落人より代金を領収した以上は債務者は民訴五七四条第二項により債権者に支払をしたものとみなされるからもはや執行停止の余地なく第三者異議の訴も訴訟の目的を失うに至るとする見解もないではないが、右の民訴の規定は債務者の利益の為に設けられたもので、差押物件が特定性を有せず喪失の虞ある金銭に変じこれを執行吏が占有する以上は公平上債務者をして危険負担を免れしめようとする趣旨であるにすぎないものと解すべきである。又右の説で執行停止の余地がないという理由がすでに執行が終了したからというにあるならば、爾後の売得金の交付乃至配当手続は執行行為でないという結論にならざるを得ず、かかる特異な解釈を容れるべき合理的な理由は発見し難いところである。

然し本件においては原告が所有権に基き異議を主張している自転車一二台がすでに競落人に引渡されていることが弁論の全趣旨により認められる。そうすると競落人が即時取得により右物件の所有権を取得している可能性があるのであるが、その場合においても売得金は右物件の代位物として原告の財産であると謂い得べく、この金員に関し原告は第三者として異議を主張し得るものと解するから、未だ訴訟の目的が失われたと謂うことはできない。

又被告は、仮に執行吏による競売代金の領収を以て執行が終了しないとしても被告としてはすでに配当金の交付を受けているから被告に関する限りは執行が終了しており、被告を相手とする本訴は理由がない旨主張するが、他の債権者の配当要求は本件の執行手続に吸収され、一体として執行が遂行されているのであるから、その中の一の債権者である被告に関してのみ独立に執行が終了するということはあり得ない。当該物件に対する競落代金が分配済とならない限りは執行が終了したと言えず、強いていえば執行の終了時期は各債権者について同時であるべきである。よつて被告の主張は採用し難い。

更に被告は、被告の受けた配当金の中には原告の所有に属しない自転車三台分の代金が含まれており、この部分に関する限りは原告の異議は失当である旨主張する。第三者異議の訴は個々の物件に対する権利を主張し、当該物件に関する執行の取消を目的とするものであるから、原告の所有に属しない右三台分に対する執行の排除を求め得ないこと明かであるが、本件の訴旨は原告の所有である自転車一二台についての強制執行不許の宣言を求めるにあること明かであるから、被告の主張は主張自体理由がない。尤も原告の主張の中には返還を受くべき金員の額を問題とする箇所がありその計算の基礎に自転車三台分が除外されていないこと明かであるけれども、本件の訴は金員の支払を求める給付の訴ではないのであるからかかる主張に拘束を受くべきものでなく、又これに対する判断を示す限りでもないと解する。

以上の次第で原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、民事訴訟法第八九条第五四九条第四項第五四八条第一、二項を適用の上主文の通り判決する。

(裁判官 今中道信)

目録

物件   型   数量    売値

自転車 OM   一台  一六、五〇〇円

同   PS-S 一台  一九、五〇〇円

同   QK   一台  二一、五〇〇円

同   Q    二台(単価二一、五〇〇) 四三、〇〇〇円

同   JP-II 一台  一九、五〇〇円

同   CG-I 一台  一五、〇〇〇円

同   CG-II 一台  一五、〇〇〇円

同   PY-24 一台   九、〇〇〇円

同   GC-U 一台  一五、五〇〇円

同   CB   一台  一八、五〇〇円

同   JB   一台  一六、五〇〇円

計       一二台 二〇九、五〇〇円

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